日本学術会議公開シンポジウム / 第6回防災学術連携シンポジウム

あなたが知りたい防災科学の最前線    首都直下地震に備える


当日のシンポジウム終了後に質問用紙にて寄せられました質問に対して回答させて頂きます。
東京都のハザードマップで、火災危険度は環状7号線と環状8号線の間の地域で危険度が高くなっています。このエリアで、地震発生後に時系列で火災がどのように広がって、鎮火までにどの程度の時間が必要かというシミュレーションはありますか?

鎮火までの時間を知るためには消防の運用までを考慮した延焼シミュレーションが必要かと思います。この類のシミュレーションは例えば消防研究センターが開発しているものがありますが、環7〜環8の間という大きなエリアを対象とした計算結果をお示しするのは少し難しいのではないかと、個人的には考えております。他方で消防力などを考慮せず放任火災を前提とした、ケースタディとしての計算結果はいくつかあると思いますが、一般的に地震火災の被害は風速や日時が大きく影響するのに加え、出火点の位置も強い仮定をおいた計算結果しかお示しすることができず、またその出火も地震時は断続的に発生する可能性もあるため、多分に不確実性の高い被害様相と捉えております。
したがって、ご指定のエリアで住民の方が避難や初期消火の検討材料とされるような、具体的な延焼や鎮火までの時間は,現段階でお示しすることは難しいのではないかと考えます。(廣井悠(東京大学准教授))
 液状化の検討について、150galに対する検討は、基準法で義務づけられていますか?東京低地の埋め立て地域でも、150galの検討で、液状化の恐れが無いと結論づけられているものが多くあります。
 200gal程度の地震動に対する液状化の判定を義務づけること対して、どのように考えておられますか?


液状化の検討について、150galに対する検討は、基準法で義務づけられていません。
「小規模建築物基礎設計指針」(2008年制定、日本建築学会)では、「小規模建築物の設計における液状化の判定は,中地震動(地表面水平加速度値150~200cm/s2) に対して,微地形などからの概略判定と併せて,簡易粒度分析と地下水位に基づく簡易判定法によって行うことを推奨する.」としています。
「建築基礎構造設計指針」(2001年制定、日本建築学会)では、「繰返しせん断応力比の算定における地表面水平加速度値は,本来, 地盤応答の結果であり,地盤特性に大きく影響を受ける. しかし,損傷限界検討用として150-200cm/s2,終局限界検討用として350cm/s2程度と推奨する.」としています。
一方、国土交通省(都市局)では、東日本大震災後に学識経験者による「宅地の液状化対策の推進に関する研究会」において、ボーリング調査結果と被害状況の関係を分析し、「宅地の液状化被害可能性判定に係る技術指針」(平成25年4月)を公表し、その中で以下のようにしています。
「想定する地震動は、各指針等により下記のとおりとする。
(ⅰ)「建築基礎構造設計指針」(日本建築学会:平成13年10月)を基本とする場合
・ マグニチュード:7.5
・ 想定最大加速度αmax:200(gal)
(ⅱ)「道路橋示方書・同解説 Ⅴ耐震設計編」(日本道路協会:平成24年3月)
・ 想定震度:khgl=0.20」
したがって、現段階では、200gal程度の地震動に対する液状化の判定を義務づけることは妥当であると考えられます。(橋本隆雄(国士舘大学教授))
 ひっこし先を検討する時に、自治体ごと、政府機関ごとで、ハザード関係の情報(フォーマット、精度)が、あまりに差がありすぎ、困りました。地域特性による差はあるでしょうが、精度などは揃えられませんか?

ハザードマップは災害種ごとにマニュアルが定められています。フォーマットや精度を揃える方向で改定されているハザードマップもありますが、今回ご紹介した地震に関するハザードマップは各自治体がそれぞれの判断で作成しているのが現状です。ハザードマップに表示された危険度は一定の仮定の下に予測され、評価されたものなので、その通りの災害が発生するとは限りません。お伝えしたかったことは、危険度評価そのものを重視するのではなく、危険度の評価の違いをもたらした土地の成り立ちの違いに注目していただきたいということです。例えば、国土地理院の土地条件図のような、地形を分類した地図を見れば、その土地が台地なのか低地なのかがわかります。台地は比較的地盤がしっかりして地震の際に揺れにくく、低地は地盤が軟弱で揺れやすいといった特徴があります。このような土地の成り立ちの違いに着目することで、フォーマットや精度の違いに惑わされることなく、土地の性質が理解できるのではないかと思います。(宇根 寛(国土地理院センター長))
平時でも道路のキケンといえば、電柱です。NY、ロンドン、香港は100%無電柱化と聞いております。首都東京での電柱が及ぼすと想像されている被害予想(人的、経済的、火災発生)はございますか。教えて下さい。

講演でご紹介した、東京湾北部地震M7.3に対する停電被害の推計は,事実上、電柱被害から計量化され ています。(このような推計方法そのものには課題がありますが、そのことを認めた上で、)停電解消までの復旧日数から経済被害の波及がどの程度の規模となるのか、概ね推定することはできます。また、火災件数の推計には、電柱被害が一部考慮されている場合もあります。電柱被害が人的被害に直接及ぼす影響の評価については今後の課題です。なお、2016年熊本地震では、共同溝による無電中化対策に効果が認められています。(庄司学(筑波大学准教授))